第159回芥川賞の候補作として選ばれた北条裕子氏の『美しい顔』。
審査員からも高く評価された”震災文学”ですが、石井光太氏の作品『遺体 震災、津波の果てに』と類似する箇所が複数あることがわかりました。
どのようなところが似ていると指摘されたのでしょうか?
詳細を確認しました。
石井光太氏の作品『遺体 震災、津波の果てに』はどんな作品?
『遺体 震災、津波の果てに』(以下、『遺体』と表記)は、
2011年10月に出版された、ノンフィクション作家の石井光太さんの作品です。
津波の被害にあった方のご遺体を安置所に運び、身元を確認し…。
石井光太氏が震災後、釜石を訪れ、医師、消防団員、埋葬業者など50人の方が、どのようにご遺体に向き合っていたのかを取材して描いた、ルポタージュです。
『美しい顔』と『遺体』が類似していると指摘された箇所
遺体リストを見る場面
たとえば、『美しい顔』で主人公が母親を探すために遺体安置所を訪れ、 「遺体リスト」を見る場面。
遺体リストの内容が詳細に描写されており、その表現がよく似ているというのです。
『遺体』より引用
死亡者リストに記載されている特徴には かなり違いがあった。
すでに名前や住所まで明らかになっているものもあれば、
波の勢いにもまれて傷んでしまっているために
「年齢二十歳~四十歳」「性別不明」「衣服なし」
としか情報が載っていないものもある。
『美しい顔』より引用
壁の遺体リストに記載されている特徴には
かなりの違いがあった。
既に身元が特定され住所や勤め先の会社名まで
記してある番号もあれば、
<性別不明><所持品、衣服なし>
としか 情報が載っていないものもある。
<年齢三十歳~六十歳>とものすごい幅のあるものもある。
「リストに記載されている特徴にはかなりの違いがあった。」
という内容から始まり、
末尾が「としか情報が載っていないものもある」
と 同じような表現になっているというのです。
確かによく似ていますね。
遺体安置所の様子についての描写
また、主人公が安置所に案内されたときの描写も似ているといいます。
『美しい顔』より引用
隙間なく敷かれたブルーシートには
百体ぐらいはあるだろう遺体が整列していて
私たちはその隙間を歩いた。
すべてが大きなミノ虫みたいになってごろごろしているのだけれど
すべてがピタッと静止して一列にきれいに並んでいる。
『遺体』より引用
床に敷かれたブルーシートには二十体以上の遺体が
蓑虫のように毛布にくるまれ一列に並んでいた。上の2つを比べると、
床の上のブルーシートの上に遺体が一列に並んでいる
という様子が一致している他、
遺体を「みの虫」と表現しているところも共通する
というのです。
さらに、テレビ朝日の調査によると、
遺体安置所の場面で10か所、似た表現があり、
遺体の確認方法などの7つの設定が似ていたということです。
芥川賞への影響は?
7月6日に発売される「群像」の8月号に、
おわびと参考文献一覧が掲載される予定とのこと。
『遺体』の出版社である新潮社は、類似箇所の修正を要求しており、
「群像」の講談社では、単行本にするときに修正する方向で
動いています。
芥川賞を主催する日本文学振興会でも、対応を検討中。
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まとめ
石井光太氏は被災地に足を運んで被害者の家族との信頼関係を結び、
ご遺族の許可を得て書籍化されていることを考えると、
石井氏の許可なしに多くの箇所が似てしまっているのは、やはりまずそうですね。
類似の箇所を修正することにより、文学的な価値も変わってきそうで、
日本文学振興会がどのように判断するか気になります。
芥川賞の候補から外れることもあり得るのではないでしょうか。
2018.7.3追記
「群像」発行元の講談社によるコメントが発表されました。
作品の根幹に関わるものではなく、著作権法に関わる盗用や
剽窃(ひょうせつ)などには一切あたりません。
さらに、評価を広く読者と社会に問うため、
作品の全文をホームページに無料で公開するそうです。
また、「参考文献未表示の過失についておわびいたします」と
お詫びした上で、参照した書籍や著者や関係者には
誠意をもって協議されるそう。
参照した図書の著者や関係者の方が納得される形になるのが
大切だと思います。
候補作から外れるということにはならず、よかったですね。
東日本大震災を経験した一人として、今回のタイミングで
また震災が思い出されて、震災の影響がなくなったわけではない
ことに想いが及ぶ機会になれば、うれしいです。
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